「そろそろ寝るか。悪いけど、またやってくれる?」
夫が差し出すのは、黄色くて小さいスポンジ。
「しょうがないなあ」
わたしは夫の頭をぐいっと倒し、細くて深い螺旋状の暗闇にこの黄色いスポンジをねじ込みます。相当キリキリとこよっても途中ですぐに膨らんできてしまうから、やりにくいんだよなあ。
「これで大丈夫だ-。じゃー、おやすみー」
やたらと大きな声で布団に向かう夫・・・
三芳村のセカンドハウスでは必ず夫は耳栓をして寝ます。
別に、わたしやこどもたちのいびきがウルサいからではありません。
家の裏山の竹のせいなんです。
竹ってやつは本当によく伸びる。伸びる速度が半端ない。
のびてのびて、たかーくのびてしなった竹は、我が家の屋根にもたれかかります。
もたれかかるだけならまだいい。
風のある日はこれが、ワイパーのように左右に揺れるんです。
ちなみに、この家の屋根は波板。(昔は茅葺きだったらしいけど。)
なみなみになっている板を竹のワイパーがなでると、どういうことになるか?
「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ」「ゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾ」「ダダダダダダダダダダ」
工事現場もビックリの大音響が鳴り響く。
風がやむまで、鳴り響く。
間違いなく安眠妨害です。(それでも起きないわたしやこどもたち。)
「裏山の竹、なんとかしないとな。あと、家の下の斜面の笹も恐ろしいぞ。この家買ったときにはきれいに水仙が並んでいたのに、今じゃ背丈2メートル以上の笹藪だ」
一念発起した夫は、竹だの笹だの、刈った刈った。
がんばったぞ偉い!
「よーし。じゃ、この竹を燃すのだけはよろしくな」
え~~~
けっこうな量だぞ。
まあでも、このまま積んでおくわけにもいかない。がんばるか。
竹って面白いくらいよく燃えるんです。バチ!バチ!とはじけながら火力が弱まることもなく燃え続け、半日がんばったら全部灰になりました。
すっきりした~
気がつくと、シャベルを手にしたニイニが。
「この灰もったいないよ。竹炭っていい肥料になるって、パパ言ってたよ」
良くも悪くもケチなニイニは、ゴミ袋に灰を詰めてご満悦。
よし、じゃ、この肥料使って今年はいよいよ畑がんばるか!!
・・・その日の夜。
今日は安眠できるぞと耳栓をせずに寝た夫。なのに・・・
「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ」「ゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾ」「ダダダダダダダダダダ」
夫よ、どこの竹を刈っていたのだ?