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Kさんのおてがみ
先日、南房総の家のある集落の会合に出ました。

平均年齢65歳、ほぼ全員男性という会。部屋に入ろうかどうしようかと迷うほどドキドキしましたが、週末田舎暮らしでも参加できる数少ない会合だったので、思い切ってがらりと戸をあけ、こっそりはじっこに座りました。娘もふたり連れて行き、目の前にはビールのかわりにカルピスがなみなみと注がれ、合いの手は柿ピーとさきいか。「早くばあさんになって、移住してこいや!」と肩をたたかれ、「いつもすみません、至らなくて」と頭を下げていました。

それぞれが世間話で盛り上がる中、さて、どうしよう、と所在なくしていたわたしに、近所のKさんが「こっちこっち」と手招きしてくれました。
わたしはあいさつのように、「今年もイノシシの被害すごかったですね」と持ちかけると、「そだなぁ~、でもイノシシにしたって、こども育てるのに必死だよなぁ~。ウリボウかっわいいしなぁ~。人間の勝手でワルモノにされてわりぃなあと思うんだどもよぉ~」と、とても素朴につぶやいたKさん。

なんだか、ハッとしました。

そうなんだよな、ウリボウかわいい。
イノシシだって愛しい。

ホントのところはそう思っているくせに、わたしはいつの間にか、「獣害」へのうすっぺらな対応について考えること、語ることのみに専念するようになっていなかったか?
獣害問題に真正面から取り組むのが「里山に住む者の使命」と思い、人間の生き方やふるまいのせいで害獣にされているという大事な認識や、イノシシの立場に立って語ることをいつの間にか脇によけて、前線で闘うぞと鼻息ばかり荒くしていっぱしの農村民ヅラを気取っていなかっただろうか?と。

人間以外の生きものの命と向き合うこと。
喰らうこともあれば、飼うこともあり、闘うこともあれば、守ることもある。
その、立場立場で矛盾を孕んだ状況を、そのまま受け止め、痛みに馴れることなく、素朴で謙虚な気持ちでいつづけることこそ、最も大事なことかもしれない。

生まれてからずっと三芳で暮らしてきたというKさんの、どこにも肩肘はらない透明なつぶやきは、心にとどまりつづけました。


その後、Kさんからいただいたメールの一部を紹介します。

『(前略)子ども達のにぎやかな声は楽しいですし、週末だけでも大歓迎です。それは田舎のことですから、いろいろ言う方もいるかもしれません。「ちゃあー飲みぃこーさ来るだけでぁねぇで、伐採もしゃっせえよ(お茶飲みにここに来るだけはなく、伐採もして下さいよ)」と言ったオヤジもいましたが、あの方は、口は悪いですが、言いたいことをはっきり言うので、私は好きなのです。でもこのまま限界集落化してゆきますと、みんながみんな、どうにもならないイジワルジジやイジワルババになりかねませんね。

(中略)ブログも拝見致しましたが、くすくすどころの騒ぎではございません。一人で大爆笑してしまいました。このような、楽しく豊かな文章に触れましたのは久しぶり、というか初めてかもしれません。また、背景の風景なども含めまして、生あるものへの温かいまなざしを感じました。
 
 ただ、当地がパラダイスのごとく描かれております事に、何やら後ろめたさも感じます。昔の話しをしてもせんないことですが、田んぼの隅(上の田んぼから水が落ちてきますから、そこだけ深くなっていたのです)やコンクリート化されていなかった水路には、フナやエビなどがいました。また田んぼ自体も暗渠排水の仕掛けがなかった湿田でしたので、稲刈り後、ひと鍬いれるだけでドジョウが何匹かにょろにょろと湧き出てきました。そして蛍もふーわりふーわりとたくさん飛んでおり、雨戸も閉めずに寝ておりました蚊帳の中に放して遊んだものです。

 下の平群川ももっともっと綺麗で、川辺でまっすぐでしなりのよい篠竹(布袋竹なら最高ですが)を見つけ、釣り竿を作り、一杯いたフナやハヤを釣り、母親が唐揚げやてんぷらにしてくれたものです。また、モクゾウ蟹が、もそもそと川底を歩き、手長エビもひょいひょいと泳いでおりました。

 馬場さんのお便りを拝見しながら、そんなことも思い出されましたが、そのような自然が段々と失われてきた代わりと言っては変ですが、私が小さい頃の、赤牛で田んぼを耕していた頃から比べれば、農作業が格段に楽になってきたことも事実です。でもそれで生活が楽になったかと言えば、必ずしもそうはなっていないところが、何なんだ、と思うところなのですね。(後略)』


集落の中ですれ違う時ひょいと頭を下げるにとどまる関係だったKさんからこんな話を伺えたのは、本当に嬉しいことでした。
というか、もっともっとこういう話が聞きたい。昔の三芳について知りたい。長い時間の流れを知る中でこそ、未来に目指す姿が見いだせるんじゃないか。

南房総ってすばらしい、ここでこれがやりたい、あれがやりたい、と、「自分がやりたいこと」ばかりが先に立ってしまいがちですが、地域の方々の言葉にじっくりと耳を傾け、心を通わせていくプロセスをもっと大事にしたいと、心から思いました。週末の限られた時間の中で、どうやって絆をつくっていくかが、今後の大きな課題です。

えいやっと参加した会合で、Kさんとお話できてよかった。
3月最後にある水路掃除も、息子らを連れて参加しよう。

今畑では、花をつけたソラマメが日々背を伸ばしています。
いいことだってたまにはある。
Kさんのおてがみ_b0128954_0183085.jpg

by babamiori | 2013-03-19 00:24 | 週末の出来事
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ひょんなことから、南房総に8700坪の土地を手に入れてしまいました。平日は都心で建築ライター・コーディネーターとして働き、週末は南房総で野良仕事。ちょっとムリして始めてみた二重生活ですが、気付けば主客転倒で、どっちがメインの住まいかわからなくなっています。田舎暮らしの衝撃と感動、苦悩と快感をそのまま綴ります。 ニイニ中3、ポチン5年、マメ1年。

by babamiori
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