「そーれこい!そーれこい!そーれこい!そーれこい!」
という声が、昨日からずっと耳の奥でリフレインしています。 マメを肩に担いで歩きながら「そーれこいそーれこいそーれこい」と縦揺れしてしまう始末。 すごかったなー、お祭り。 先日、東京の自宅の近くで町内会のちっちゃいお祭りがあって、ちっちゃいちっちゃいお神輿がぴーひょろぴーひょろ家の前を通るのを「わぁ~」と言いながら庭から見ていて、そのままふらふらとお神輿についていってしまったニイニとポチン。こどもってお祭り好きなんだなあとほほえましく見ていたら、南房総の師匠N田さんから電話がかかってきました。 「もしご都合がつけば、明日やわたんまちに行きませんか?ご案内しますよ」 やわたんまち? 「房州最大のお祭りって言われているんですよ。場所?館山の大きい交差点にある、鶴谷八幡宮。そりゃあもう、すごいですよ、いやもう、すごいんですから。一度お見せしたくてね。」 そんなすごいもんがあるのを、今まで知らなかったなんて不覚だったわ~ 元来お祭り好きのわたしは、こどもってホントにお祭りが好きだからねー行ってあげたいよねーと人混み嫌いの夫を説得し、過密スケジュールをぎゅぎゅっとこじあけて、天気も怪しいのに東京の家を離れて「やわたんまち」に繰り出すことに決めました。 行ってみてびっくり。ホントにすごかった… 桐紋の入った巨大なのぼりが漆黒の空に堂々とはためいています。 夜店があたり一面に立ち並ぶ中に足を踏み入れると、こどもでなくてもうきうきスキップしたくなる雰囲気。いつもはまるで欲しくないお面まで買いたくなっちゃう! 天井までアイドルの写真が… しかもけっこう買っている人が… 「ねえ、昔行った、ランカウイのナイトマーケットみたいだねっ」 今よりずっと新婚ムードに近かった時代に行ったマレーシアを思い出し、めずらしくニコッと笑って夫に話しかけると、 「三社祭もこんなかんじだったね」 と、ひとこと。 …あのー、それわたし、あなたと行ったことないんですけど。 いつ、どなたと一緒に、行かれたんですかね。 (夫はよくその手の失敗をする。でも、あとで詰め寄ると「オレは『三社祭もこんなかんじなのかね』と言ったんだ!オレだって行ったことはない!」と憤慨してました。) 「なんかさあ、千と千尋の神隠しみた~い」 「せんとちひろだねニイニ!」 こどもたちも大はしゃぎ。やきそば買ってー!たこ焼き買ってー!フランクフルト!焼きイカ!とわたしのTシャツを両方から引っ張ります。 しょうがないなあ。じゃあたこ焼きと、やきそばね。 (ふふふ、今日の夕飯は夜店ですませてしまおう) 食べ歩きという幸せ。 このゆる~い雰囲気、たまんないよなあ。 実はわたし、小さい頃、あんまりお祭りに連れて行ってもらったことがないのです。 近くに大きなお祭りがなかったのも理由のひとつですが、「夜店の食べ物は衛生的でない」というのが親の意見。たまに行っても、あんず飴やじゃがバターやチョコバナナなんて絶対買ってくれないんです。唯一、ハッカパイプだけはOKで、妹とふたりでゴレンジャーのハッカパイプをしゅーしゅー吸い込みながら歩いたなあ。粉のハッカなら衛生的に許されるっていうのがイマイチ腑に落ちなかったし、しかもハッカそんなに好きじゃなかったし、なんか面白くなかったよなあ。そんな恨みが転じて、お祭りになると妙に気前よくいろいろ買ってしまう親になっておる次第です。 ポチンには、プリキュアのわたあめ。 ニイニは生まれて初めて射的にトライ。 絶対倒れそうもない大きいハコ狙ってました。 結局、300円お店に寄付。 あと、ひときわ目立っていたのが、コレ。 お笑いお化け大会。毎年このお祭りにやってくるという名物らしい。 いったい、どんな大会なのだろう? 「こわくないよーこわくないよ、中にいるのはとっても面白いおばけたち、こわくないよーこわくないよ」とかいう口上と、中学の文化祭みたいな手作り感満載のファサードが極めて魅力的。どんなおばけがスタンバイしているのかすんごい気になり、入ってみようかなと2秒くらい考えましたが、大勢群がっているのに誰一人入っていないのが逆にコワくて、やっぱりやめました。 いよいよ神社の境内に入ると、そこはとんでもない盛り上がりを見せている、別天地でした。 真っ白い衣装(白丁、というそうな)を身にまとった男衆がお神輿のまわりに100人くらい、ものすごい勢いでもみ合っているのです。掛け声と甚句が喧噪をかき消します。 「そーれこい!そーれこい!そーれこい!そーれこい!」 その迫力たるや…周りを囲んで見ているギャラリーの中にもみ合いながらどどどっと突っ込んでくるのです。 「これはね、一番前で見なくちゃ面白くないんですよ」と、N田さん。 バギーのマメは後ろで避難して、最前列でN田さんと一緒に見ていると、担ぎ手の男たちの異様な熱気がじかに伝わってきて圧倒されます。 「わたしもね、若い頃は毎年担いでたんです。いやあ、担ぎたいなあ!」 N田さんによると、これを担げるっていうのは、ある意味ステイタスなのだそうです。見れば、中学生くらいの男の子も同じ白丁を身につけて、同じ色の鉢巻をしめてまわりに立っていたりします。この晴れ舞台にいつかは自分も…と思っているのでしょう。 「今ではお神輿はトラックでこの八幡宮の近くまで運んでますが、昔は、地元の神社から担いで運んだんです。途中でね、大きい屋敷の家に泊まらせてもらって、また担いでね」 「すごい!お神輿、重いんでしょう?」 「1トンはありますよ。担ぎっぱなしで肩なんかべろべろに剥けちゃいますから、痛くって痛くって。それを酒飲んでごまかしながら、2日間担ぎ通すんです」 お祭りのことを語るN田さんからは、自分の地元への愛情と誇りが感じられて、思わず話に引き込まれてしまいます。 「お神輿は全部で10基、ここに集まるんです。わたしの実家、丸山町の莫越山神社のお神輿はね、本当は屋根の上に鳳凰が乗ってたんですが、痛んでしまって玉に変えたんですよ。これ、一基何千万円もするようなものだからね、修繕し修繕し使ってるんです。剥げた金箔も貼りなおしたりして。でね、よく聞いてみてください、うちだけは甚句を読むとき、メガホン使わないんです。地声です」 さんざん境内でもみ合ったあと、お神輿は神社の中の神主さんに向かって進み、挨拶をし、そこで「〇〇神社、おめでとうございます」という放送が流れます。 「おめでとうございますということは、収穫かなにかを祝っているんですか?」 「そうです。やわたんまちは、安房の収穫祭です」 そしてお神輿は、参道を担がれて進み、元の神社に帰っていくわけです。 「このお祭りが終わるともうこの辺は、どっぷり秋ってことですね」 N田さんは、かつて自分が担いでいたお神輿が遠ざかっていくのを見やりながら、首にかけていた手拭いでごしごし顔をこすり、ふうっと溜息をつきました。 お祭りなどすっかり形骸化し縮小化されてしまった、地域コミュニティの結束のない都会に住むわたしにとって、このお祭りは心打つものでした。 担ぎ手の男衆の中にはスカした感じのお兄ちゃんたちもいましたが、小さい頃からこのお祭りに参加して、いよいよ大人になって自分でお神輿を担いで、みんなでふらふらになるまで担ぎ通す中で、スカしたお兄ちゃんの中にも地元への強い愛着が芽生えないはずはありません。そうして刷り込まれた郷土愛があるからこそ、地域が全員体制で田畑を守って生活を維持してこられたのでしょう。 ヨソモノのわたしたちですら、その強い結束ムードのおこぼれをもらって、何ともいえない感慨を胸に、帰路に着きました。 で。 駐車場に戻ると、「なんじゃこりゃ?」 うちの車のまわりに、人だかりが! じゃなくて、ムシだかりが。 正確に言うと、カメムシだかりが。 電灯の下に停めておいたからかもしれませんが、なぜかくっついているのはカメムシだけ。 しかも、「走ればとれるさ」と走り出しても、風圧でさらにぴったり張り付いて1匹も減らず。 間抜けなカメムシの裏側をじっと見ながら帰ったら、お祭りあとの感慨が減っちゃったよ、もう。
by babamiori
| 2008-09-16 16:41
| 南房総のこと
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ひょんなことから、南房総に8700坪の土地を手に入れてしまいました。平日は都心で建築ライター・コーディネーターとして働き、週末は南房総で野良仕事。ちょっとムリして始めてみた二重生活ですが、気付けば主客転倒で、どっちがメインの住まいかわからなくなっています。田舎暮らしの衝撃と感動、苦悩と快感をそのまま綴ります。
ニイニ中3、ポチン5年、マメ1年。
by babamiori
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