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うちの敷地に埋まっていたすごいもの:前編
年末、体に奇妙な症状が出ました。

味覚が狂ってしまったのです。

まったく無味ではないのですが、甘みはほとんど分からず、塩味は感じない場合と異様にしょっぱく感じる場合があるという状態。酸味は遠いけれどまあ分かる程度。そして、大好きだった辛いものが、辛い(つらい)ほど辛く感じて食べられなくなりました。
そのかわり、旨みや風味はものすごく強烈に感じ、小麦やお米の味がうわっと伝わってくる。甘味料の味も強烈に感じられるので、ダイエットコークや甘味料入りのお菓子が気持ち悪くて食べられなくなりました。
風邪を引くと味覚が鈍くなりますが、あれとはぜんぜん違うかんじ。

口の中はいつもより乾いた感じで、舌は山椒をたくさん食べた時のように痺れていて、時に痛い。

歯科医師の友達の勧められて耳鼻咽喉科に行こうと思うも、あまりに忙しくてその時間がとれず、食事がつまらなーい、料理のしにくーい日々が続いていました。

甘くないケーキって、まずいんです。冗談みたいな食べ物になります。
塩味のないうどんも、はっきり言って粘土。チョコも泥粘土。
そんな時にかぎって家族に「ポトフが食べたい!」と言われるも、微妙な塩加減がさっぱり分からず。ニイニやポチンを傍に従えて「どお?」「味ある?」と確かめ…自信のないお皿を食卓に並べる。(しかし、こどもの意見というのはかなりアヤシイ。「味がしない」と言って塩を2振りし、「激ウマ!」と大げさに感動したり。鍋一杯に塩ひとつまみでそんなに変わるわけないだろと思うのですが。)
家族には申し訳ないけれど、焼き魚とかお刺身とかおひたしとかお鍋とか、さじ加減の必要ない料理を出すようになっていきました。

人間が生きていく喜びのかなりの部分に、食が関係していますよね。
その部分の感覚が奪われると、日常がぞぞっと色褪せ、心なしか他の感情まで乏しくなってしまうものだと分かりました。料理はおろか、外出、人間関係にも消極的になっていくし。(たまたま原稿書きで忙しかったから、普通に引きこもっていましたが。)


そんなある日。
三芳村でいつものように、ちまちまと畑の手入れをして過ごしていたら、我が南房総の師匠N田さんがやってきました。

「いやね、今度一緒に掘ろう、ってニイニくんと約束したんですよ。男の約束、果たしにきました。」

遺跡でも掘るのか?という道具を、からんと地面に置くN田さん。
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ニイニは小躍りして「ホントですか?誰が掘るんですか?オレは無理かもしれないです。友達の中では結構力ある方だけど、オトナに比べるとまだ非力なんです。でもホントにあるんですか?この間見たところがいいんじゃないですか?」と、N田さんに質問を浴びせ、まとわりつきます。
…教育って難しいですよね。オトナにはですます調で喋ること!としつけたつもりが…メガネ面で無遠慮な口調でおしゃべり、しかもですます調、って…慇懃無礼で頭でっかちなイケ好かないガキといった体裁になってしまうのだ。悪気はないのは分かるんだけどね。

そんなうざったいニイニを軽くいなしながら、N田さんは以前チェックしていたポイントへ。
金魚の糞もぞろぞろとついていきます。
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ニイニと一緒にごそごそと藪を探すも、「切れてますね…」「おっかしいなあ…」とどうも当てが外れた様子。

気を取り直して場所を改め、道の脇の土手の斜面を見定めて「よし、ここで行きますか」とN田さん、やおら掘り始めました。
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ざく。ざく。
リズムよく、土を上に放る。
埋め戻しのことを考えて、斜面の土を掘るときは上に盛っていくのが常識だそうです。

N田さんはこともなげにやっていましたが、途中でかわったニイニがやると、
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なんじゃ?その格好。
スコップが刺さらない、持ち上がらない、力が出なくてぜんぜんダメー。
「なっさけないね~~、野生児返上だよ。もっと力入れて!へたっぴ!」と檄を飛ばすと、「やってない人間に言われたくないよ!!」と激怒しつつ、すぐに疲れるニイニ。

ああ分かったよ、じゃあママがやりますよ、そこどきなさい、とニイニを蹴散らしてわたしの出番。昔素振りで鍛えた腕を甘く見るんじゃないよ、と気合い充分で始めましたが、
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…スコップで穴を掘ったことって、最近あります?
きっついわ、これ。
すっっっごい疲れる仕事です。腕立て伏せする代わりに、スコップで穴掘ったらいいと思う程。
耕された畑の土じゃなくて固まった土ならなおのこと、スコップを土に突き立ててごそっと持ち上げて、その土を上に放るという動作には、わたしにはありえない力が必要。

へぇぇぇぇぇ~~~

30堀りくらいですぐにへばるだらしないわたし…

「じゃ、代わりますね」と、笑ってスコップを引き取り、続きを掘るN田さん。
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すごい筋力。。自分でやると、そのすごさが実感できます。
空手をやっているって言ってたけど、実際頼もしいなあ!!
やっぱり男はこうじゃなきゃね~~~尊敬~~~~(注:誰かへの当てつけではありません。)

…そのうち、手つきが慎重になっていったかと思うと、スコップを置き、本当に遺跡探しのように丁寧に土を払って、嬉しそうに振り向きました。
「出ましたよ、お宝。」
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この、下の方にぶら下がった肺みたいな格好のやつ。
これぞ、正真正銘、天然の自然薯であります!!!

実は以前から、ムカゴ(地上茎につく球芽で、ちっちゃくてつるつるの小イモ)がぽろぽろとついている茎を見つけて「この下に自然薯があるぞ~」と目をつけていたニイニとN田さん。
掘ったことも食べたこともなかったわたしたちは、ぜひいつか、これを掘ってみたいなあと思っていたのです。もちろん、ニイニがその筆頭者。

一応軽く解説すると、自然薯は、野山に自生する天然の山芋(とろろ芋)です。お店でよく売っている山芋には、長芋(棒状のもの)、大和芋(ごぼごぼと手みたいな形)、捏芋(丸い形)などありますが、自然薯は地下の状態によって形がまちまちです。障害物がなければまっすぐに伸びるし、土の中の石や岩に当たるとくねったりトグロを巻いたりとすごい形になります。
道の駅でひょろっとしたものが1本2500円~で売られているのを見たことがあり、ひょえー高い!!と驚きましたが、とにかく掘り出すのが大変な貴重な食材なのです。

「これをね、折れないように掘り出すのが、プロなんですよ」と、多少息のあがった声のN田さん。少しずつ土を掻き出していくと、すこーしずつ、形が現れてきます。
岩にあたって扁平に変形し、トグロを巻いた芋が、N田さんの手によって土からはがされていく…むちゃくちゃ苦労して掘ったものだけに、きれいな形のまま掘り出したい!と緊張が高まります。
いつもなら「やらせてー!」と割って入るニイニも、このときばかりはN田さんの手元を食い入るように見つめています。
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まさに、地中の神秘です。

N田さんに頼りっきりの分際で苦労を語るのは憚られますが、掘るのだって容易じゃない。今回は傾斜地だから横から掘ることができますが、下へ下へと掘り進めるのはもっともーっと大変とのこと。(N田さんが持参したのは、下へ掘る用の道具とのこと。土を掻き出し、芋を堀り上げるのはスコップでは無理らしい。)

と、そのとき。

「あ~~~~!!!やっちゃった~~~~~!!」

頭のてっぺんから後悔の雄叫びをあげつつ、破片を手に首をふる姿が…
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どうしようもない奇形で、くびれでポキッとやっちゃったらしい。

「ぜんぜんオッケーです!食べりゃ同じです!!」
化石とか土偶じゃなくて、最終的に胃袋に入るものだもの!

気を取り直してまた、そーっとそーーーっと手で土をどけていくと、あるところで「かぽっ」と土からはずれました。
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お~~~、これだ~~~~

まるで、土中から臓物を取り出したような、手の震えるような感動が伝わってきます。
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蔓から切り取って出すと、芋の全貌が明らかに。
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洗ってみたら、こんな凄まじい形。
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1本の蔓をたどると、こんな生命力を凝縮したような根がある。
それを、苦労してでも掘って喰らおうという人間。
こんなに深いところにある、こんな根っこが美味しいなんて、誰が気付いたんだろう?


「口惜しいなあ…もう1本、いきますか」
まさか!!N田さん、まだイケるんですか!?
わたしだったらそれから3日は寝込むほどの重労働の後なのに。

疲れより悔しさの勝った1本目。これじゃあ納得できないという山の男は、このすぐ近くに生えていた蔓を見つけ、昼食をはさんで2本目に挑戦することに。
(ちなみに、ムカゴがない時期に自然薯の蔓を見つける方法は、蔓にある上向きの棘を見つけることです。
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出っ張ったところにある棘ね。これが目印です。)

今度は、素直に下に伸びている、長そうなものが見つかりました。
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これは、芋の位置がまたより一層深かった…
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でも、2回目は、神が味方してくれたぞ。

「出た!出ましたよ!!これは折れずに出てきたよ!!」
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最大径10㎝、長さ80cmの自然薯、出現です。
快挙!
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まずもって、その形態に感動します。ずいずいずいっと長く下に伸びたあと、とっくりのように下が膨らんで、ひとうねりして止まっている。筆書きの文字のようにしなやかで、骨董品のようなふくらみや重みも、そしてその長さも、美しい。
「これなら、5000円くらいになるな」とのこと。

「自然薯はね、むかしっから、掘ったらヒトにやるなと言われているんですよ」と、N田さん。その心は??と期待して聞くと、「そりゃ、こんだけ掘るのが大変なもんだから、ヒトにやるのは惜しいって話でね」とのと。ハハハ。
そのわりには「ああ、全部持って帰ってくださいよ。うちはね、近所で掘ったヒトからよく貰うから」と、惜しげもなくくださりました。普通にみんな掘るものなのかしら?

それにしても自分の家の敷地にあったものだとしても、これはさすがに掘る労力をかけたヒトのものだと思うんだけど…本当に貰っちゃっていいんだろうか…?

「いや、みなさんに食べてもらいたくて。ぜんぜん違うから」
にっと笑って、本当に美味しそうに一服する姿、かっこよかった。
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ちなみに、掘ったあとの穴はこんなです。
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ポチンを埋めるのにちょうど良いサイズ。
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こりゃあ…女子どもが気楽に掘れる深さではありません。
でもわたし、決意しました。
今年の暮れ、マメが1日待ってくれるくらいイイ子に育っていたら、絶対自分で掘ってみようと。
今度は、自分の手で掘り出したお宝を、天高く掲げてみたいと。
畑仕事ですっかり節くれだった自分の手を見つめながら、そう心に誓ったのでした。(手がごついのは生まれつきという噂もあるが。)


さて。
これを食する話は、次回のお楽しみということで!!
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by babamiori | 2010-01-13 17:07 | 週末の出来事



ひょんなことから、南房総に8700坪の土地を手に入れてしまいました。平日は都心で建築ライター・コーディネーターとして働き、週末は南房総で野良仕事。ちょっとムリして始めてみた二重生活ですが、気付けば主客転倒で、どっちがメインの住まいかわからなくなっています。田舎暮らしの衝撃と感動、苦悩と快感をそのまま綴ります。 ニイニ中3、ポチン5年、マメ1年。

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