「・・・あなた。わたしこれから、出してくるから」
夫に、静かにそう告げる。
「オレには出す権利がない。おまえだけで、行ってきてくれ」
夫は、わたしの肩をそっと押した。
役所のヒトたちが、じっとこちらを見る。
わたしの事情を見透かすかのように。
紙を持つ手が、かすかに震える。
わたしには、本当に、これを出す権利があるのだろうか?
「ここに・・・名前を書くのね」
責任の重さに、ペンが止まる。
出してしまったら、取り返しがつかないのだ。
でも、ここまできてしまったら、後戻りはできない。
迷って、迷って、さんざん迷って・・・
とうとう、意を決して、名前を書いた。
そして、「こちらです」と促されるまま、
この紙を、出してしまった。
これで、本当に、よかったのだろうか。
わたしの選択は、正しかったのだろうか。
役所のヒトの視線を痛いほど感じながら、そそくさとその場を離れた。
夫は、外で待っていた。
「・・・おわったよ」
「・・・そうか」
「あなたとわたしは、違うの。お願い分かって」
「分かってるよ。オレには、出す権利も、止める権利も、ないんだからな」
「だって・・・」
だってだって。
だってわたしは、あなたと違って、
千葉県民なんだもん。