「もしもし?お預かりしていたキジの卵ですがね」
はいっ!! ・・・ってかよく考えてみればなぜ今日電話かかってくんの? (あ、前回と前々回の話の続きです^^;) まさかまだかかってくるわけがないと思っていた電話に、心の準備がまったくできておらず。 前払い金が足りなかった?あるいは何か記入してお店に送らないといけなかったっけか?うーん、、と、ながーい雑巾を絞るみたいにぜんぜんうまく絞れない頭で理由を考えてみるも、よく分からず。 だって、鳥信さんに卵預けてまだ4日。 いくらなんでももう孵るとは思えない。 だってわたしにはあの卵、産みたてに見えたもん。 24時間一緒にいたけど、卵の中からはぴよとも、かさともこそとも、聞こえなかったもん。 ひょっとしてぜんぶ死んでたのか? ・・・それはあり得る。 何しろ42℃まで温めちまったもんな。わたしの不行き届きで。 「ためしに1個割ってみたら温泉卵になってましたよ」と言われるかも。 「召し上がるかなあと思って一応とっておきましたけど」などと続いたりして。 あの晩見た悪夢は正夢だったってことで、このキジ騒ぎは終了か・・・ 実に淋しい結末だが、ありのままを受け入れねば。 「もしもし、もしもし?あのですねえ、どうかなあ、他のは動きがないんですけど自然のモノだからまあそれまでの卵の環境はわかんないししょうがないと思うんですけどねえ、とりあえず今日んとこは1羽は孵ってましたんで引き取りに来ていただけますかねえ?」 はいはい。 ・・・え? つまりなんだ? 孵ったって、ゆった?いま。 「ええ、孵ってますよ1羽」 ・・・孵った? 1羽、孵ったのか? ぜんぶ死んでしまったかもしれないと思ってたけど、孵ったのか。 生きてたんだ、卵・・・やったぁー!!! キジの雛だ、キジの雛が生まれたんだぁ! ホントなら南房総の畑の真ん中で生まれてたはずの雛が、荒川の近くまで運ばれて、暗い箱の中で生まれたんだ。 いっぱい生まれるはずが、1羽だけ。 まわりの卵がしーんとしてる中で、その子だけがコツコツ殻割って、出てきたんだ。 そっかぁ・・・・・・ なんとかがんばって生き延びた子が、いたんだ。 電話の奥から「ぴよ、ぴよ」とわたしを呼ぶのが聞こえた気がしました。 (ってか実際この店はえらい数のぴよぴよぴよぴよぴよ!!に満ちているんだけどね。) うっ、うっっ・・・泣けてきた・・・ママはここに、いますよ・・・ 「あのぉ、お客さん引き取ることになってるんだけど、大丈夫ですかねえ?」 携帯を持ったまま胸をかあっと熱くして黙ってしまったわたしの気配の異様さに、お店のおじさんはわたしが雛を引き取らないんじゃないか?と心配した様子。あわよくばお店に置き去りにしちまおうと思ってるのかと、勘ぐられたみたい。 んーなわけないじゃん! 背中に羽はやして雛のもとに飛んでいきたいくらいだ!! 妻が無事出産したことを電話で告げられた夫って、きっとこんなかんじなんだろな。 「生まれたぞ、生まれたんだ、オレの子が」ってぶつぶつ言いながらぐるぐる歩き回るくらいしかできなくて、嬉しさや愛おしさをぶつける対象が目の前にいなくて手持ち無沙汰なまま心臓がバクバクしちゃうかんじ。 当事者なのに近くにいないっていうなんかスカスカして落ち着かないってかんじ。 「ありがとうございます。明日、なんとか時間見つけて引き取りに行きますから、それまでどうぞよろしくお願いします」 ・・・ふぅ。 鳥信さんとの電話を切り、ひとつ深呼吸をすると、どうにか平常心が戻ってきました。 そこでふっと、現実に引き戻されるわたし。 で。 どうやって飼うんだ? こんなに大騒ぎしていたくせに雛を迎える用意をなーんにもしていなかった。 それどころか、卵の孵し方と大きくなったキジの飼い方は調べたけど、雛を育てる方法についてはすっかり抜けていたことに気付いてしまった。。 まさかはじめから2坪の禽舎はいらないだろうけど、キジの雛ってどこでどういう風に育てればいいんだろう?餌はなんだ?虫とか与えるのか? だいたいキジを飼うには許可が必要だったはず。なりゆきでキジ飼い始めて鳥獣保護法違反でわたしが逮捕されたらニイニやポチンやマメやくろやぴょんや夫はどうなる? やばいよやばい、明日雛が来るっていうのにさ!! 困り果てた末、分からないことは権威に聞け!!と、電話しちゃいました。 全日本雉類研究会の、伊藤正さんに。 ご存じですか?伊藤正さん。 わたしみたいにキジの件で切迫したら、きっと皆さんこの方にすがりたくなると思います。 何しろ、「全日本雉類研究会」を主宰しておられる。 もちろん面識などありません。ただ、キジなんか飼えるか~?と不安に思いながらいろいろ検索している中で「キジ類の華麗な世界へようこそ」という何とも前向きなページを見つけ、そこに「2坪程度の禽舎があれば誰でもこのすばらしい鳥を飼育・繁殖できる可能性があります」「ぜひ興味がある方は飼育に挑戦して見て下さい。そこにはキジ類の華麗な姿があります」と、めっちゃキジLOVEな言葉が羅列してあったのを見て、もうほんとうに勇気づけられたんです。 これが「伊藤正」さんの書いたものであった次第。そのページのトップには事務局の電話番号が記載してありました。 この方なら、「キジの飼育?無謀ですよ。訴えられますよ」とは言うまい。 だってこんなに勧めてるし、キジの飼育を。 迷わずテル。 「あのー突然ですみません、わたくし普段は東京に住んでいるんですけど南房総にも家があってそこでキジの卵を拾ったという者ですが」 この明らかに意味不明で唐突な電話に、伊藤正さんは親身に対応してくださいました。 「3週間ほど温度管理などしっかりやれば、あとはちゃんと育ちますよ」「キジを飼うことの許可はね、放鳥せずに飼うと決めたら考えればいいですよ。誰かに何か言われることがあったとしても、経緯を話して対応を考えれば大丈夫。わたしも行政の仕事をしていますからそのあたりはよく分かっていますから」とのこと。 よっしゃ!権威から、大丈夫というお墨付きをいただけた! しかもなんと、「鳥信さん?ああ、ご主人のことはよく知ってますよー」とおっしゃる!「そうか、鳥信さんで孵化してらっしゃると。ならばご主人にぜんぶ相談すればいい、誰よりも詳しいから。何ならわたしの名前を出してくださってかまわないですよ」とのこと。 仕事では建築業界って本当に狭いもんだとよく思うけれど、鳥飼い業界も相当狭い! にしても鳥信さん、すんませーん・・・ 心のどっかで「キジの卵なんか持ってこられて迷惑だったのかな」と卑屈に考えてました。 ガタガタ動揺せず、鳥信さんに相談すればよかったのね。 翌日。 鳥信さんのところに、行きました。 うちの卵たちが入っていた孵卵器は、コレ。 右側の卵です。 そして、そして、そして。 「今お渡ししますね」とバケツに移されたのは、 なんと2羽!! 実は、右側にいる子はあとから生まれた方で、足が開いてしまっている奇形でした。 途中で卵を冷やすとこういう障害が出るらしい。親が放置したあとか、わたしたちの卵移動中に冷えてしまったんです。 「この子はちょっとね・・・こんなに足開いてると厳しいよね」と言われましたが、もちろんどちらも大事に引き取りました。 ホカロンをぺたんと貼った小さな箱に入れてもらって、温熱電球と雛用の餌を飼って、大急ぎで23区の反対側にある我が家へと帰りました。車の中でずっと「ひよひよひよひよ」「ひよひよひよひよ」と鳴き続けていた2羽。赤信号になるとどうしてもたまらなくなって箱を覗いてしまう。 うーんたまらん!! うちに着くとすぐ、くろとぴょんに見つからないようにそっと和室へ行きました。(家族で協議した結果、当面は和室をキジの保育園とすることに。以前、子猫のくろ&ぴょんが畳や障子をぼろっぼろにしてくれたので、キジが多少汚してもぜんぜん惜しくない空間。ちなみにキジの雛が和室を卒園後は、改装し、もうすぐ思春期のニイニが女子部屋を出て入居の予定。) やっとやっと、だっこしてみた。 まったくの手のひらサイズ。 まだママの下でうずくまっている時期だからか、こうして手でくるんでやると、ちょっとほっとしたように動きを止めて「ぴよぴよぴよ」と鳴きます。 狂おしいほどかわいい・・・ この小さな小さな頭のにおいを何度も嗅ぐ。ん~~ こちらはお尻。 ああ、もう、食っちまいたいほどかわいい! (・・・ホントにedibleだからこういう言い方はふさわしくないかも。。) 学校から帰ってきたニイニも「ぎゃーカワイ~!!」とすぐ手にのせて、愛でる。 「だめだかわいすぎる。一緒に寝たいくらいだよ」 同感。 もう、何もかも、ふっ飛ぶね。 新しい命の、この圧倒的な存在感。 こーんなに長々と今までの経緯書いてきたけど、実際この子たちを見たあとは心配とかなんとかぜんぶ吹っ飛んじまって、カワイイ~~~ってことくらいしか言うことがないのです。 それは、自分の出産前と出産後の気持ちの変わりようと、とてもよく似ています。 そうそう。 結局、その後もう1羽生まれ、その子も引き取り(こんどは通勤帰りに電車でピックアップ。日比谷線の中でわたしのバッグは「ぴよぴよぴよ」といっていて、隣りのおじさんに「ケータイ音にしちゃずっと鳴ってるな」みたいな目でチラチラ見られてました)、兄弟は3羽となりました。 残りの11この卵は、先日、「もう孵化の見込みなし」との連絡があり、この世を去りました。 もうずいぶん前に去っていたと思うけど。 孵化率は決して高くなかった。14分の3。 キジママが育てていれば、きっと、もっと生まれていたはずです。 しかも、わたしたちが卵を見つけた時にはすでに、中で雛の形になっていたことも分かった。 あとちょっと・・・そっとしておいてあげていれば。 せめてもの償いとしてわたしたちに今できることは、この、生まれてきてくれた3羽を、ぴよぴよからケーンケーン!にまで元気に育ててあげることくらいです。 ちなみにこの子らの名前は、キーちゃんとジーちゃんと3ちゃん。 (命名の安直さについては自覚してるので何も言うな!) いやあ、すごいよキジの雛は。 こんなにカワイイものは、ない。しかも、野生の生き物を見る感動がある。 そのことについてはまたきっとお話しますが。 まず発見したのは、「ピヨピヨ」という声は口を閉じていても聞こえるのでのどのあたりが鳴っているということ。 餌は、すぐに自分でつついて食べ始めたということ。 そして、人間をママだと思ってくっついて歩くというのはほぼ完璧な妄想だということ。むしろ脱兎の如く逃げる。逃げる姿には、深い野生を感じます。 だって走るとめちゃめちゃ早いんだから!!ゴキブリ並み。(いやホントに。) まあ、見てよ。 今後のことはもうぜんぜん、考え切れてないし、すでに心の痛むことや心配なこともたくさん抱えているけれど、とにかく今はこの子たちを必死に育てています。 そして、ジーちゃん(足の悪い子)が果たして生き延びられるのかが、今もっとも心を砕いていることです。 そんなわけで。 目下、我が家は「ネコ部屋」「キジ部屋」「水の生き物部屋」で構成されており、我々人間は彼らの部屋を間借りして住むような形になっております。はい。 ご静聴ありがとうございました。 今後ともよろしく。
by babamiori
| 2010-05-20 23:58
| 東京にて
|
ひょんなことから、南房総に8700坪の土地を手に入れてしまいました。平日は都心で建築ライター・コーディネーターとして働き、週末は南房総で野良仕事。ちょっとムリして始めてみた二重生活ですが、気付けば主客転倒で、どっちがメインの住まいかわからなくなっています。田舎暮らしの衝撃と感動、苦悩と快感をそのまま綴ります。
ニイニ中3、ポチン5年、マメ1年。
by babamiori
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