前回のつづきです。
家に着いたら、泣きじゃくった顔のニイニがよろよろ出てきました。 「ひどい状態だよ、3ちゃん立つことができなくなってるよ、早く病院に連れて行こうよ」 1階のリビングに入ると、床には3ちゃんの羽が無残に散乱していました。 いつもと変わらずこちらを見るくろとぴょん。 くろぴょんただいま~!元気だった~?と声をかけることができず、息を飲むわたし。 ニイニによって和室に隔離保護された3ちゃんを見ると、前につんのめるような状態で座っていました。わたしが行っても、動くことができない。 部屋にはリビング以上の量の羽がちらばっていました。 あわてて抱き上げタオルでくるむと、ぐったりとなされるがままになっている3ちゃん。 3ちゃんの腹部には出血の跡があり、じっと開けた目がたまにすうっと閉じます。「起きて3ちゃん!元気出して!」と抱きしめてさすってやると、また目をあけて、微妙に首を動かします。 わたしは思わずじーちゃんの最後を思い出しました。 奇形で体に自由がなかったじーちゃんでさえ、死ぬ前日までは足にも羽にも意志が漲っていました。行きたくないところには行きたくない、抱かれたくないときは抱かれたくない。そんな気持ちを全身で表していました。 本当に、動けなくなったのは、最後に抱いたあの日だけでした。 じーちゃんの体温と命がわたしの手のひらに染み込んでいき、同時にじーちゃんから体温と命が抜けていく感触が、とてもこわかった。「ダメ!ちゃんとしてじーちゃん!ちゃんと生きて!」と息を詰めて念じつづける中、目を閉じ、足が伸び、すうっと軽くなったじーちゃん。 3ちゃんを胸に、あの時の無力さが蘇ってきました。 「きーちゃんは?」ニイニに聞くと、「生きてるよ、傷もないよ、机の下にいる」。 警戒心の強いきーちゃんはどうやら逃げ果せたようで、机の下に隠れたまま神経質に足踏みをしていました。 よかった・・・生きてた! 守られていたはずのじぶんたちの住処に敵が侵入し兄弟が襲われた恐怖からか、いつもより更にびくびくしているきーちゃんに「大丈夫よ、大丈夫よ、あなたはここで待っていてね」と声をかけ、部屋を暗くしてしっかりと扉を閉めました。 ・・・この扉を、ネコが、開けたのか。 くろとぴょん、とは思わず、「ネコ」と思うわたし。 憎らしいはずの敵が、かわいいかわいいくろとぴょんだなんて。 保育園にいるポチンとマメをかっさらうようにピックアップし、3ちゃんを抱かせたニイニを助手席に座らせて、じーちゃんの時にお世話になった「横浜小鳥の病院」へ向かった時は、18時をとっくに過ぎていました。「急患ですね、いいですよ、予約なしでいいからすぐに連れて来て下さい」と言っていただいたのを頼みの綱に、美しい夕焼けの中、第三京浜を疾走。 隣のニイニに「3ちゃん生きてる?」と1分ごとに聞き、「生きてるけど目が閉じちゃう!」「生きてるけど元気がないんだよ!」と悲鳴のような返事が返ってくるという緊張した車内。「3ちゃん大丈夫?」「ニイニにはわかんないよ!」「でも生きてる?」「生きてるけど・・・ママ早く病院に着いてよ!!」 そんなやりとりを、何十回繰り返したでしょうか。 と、突然「あっ・・・3ちゃんが暴れる!ママどうしよう!」とニイニが叫びました。 タオルを押しのけ、羽をばさばさと動かす3ちゃんに、ニイニの手が緩みます。 「ひょっとして元気になったの??」と思わず明るい声を出すと、「でも押さえきれない~」というニイニの声と同時に3ちゃんが車内に飛び出し、バタバタバタバタとはばたきました。 「うわ!!どうしよう!!ニイニにはつかまえられないよ!!ママどうしよう!!」 「いいからつかまえて!ママ運転中だから手が出せない!」 3ちゃんは、天井に届きそうな高さまで全身の力で羽ばたくと、そのまま、ばさっと下に落ちました。 助手席のニイニの足もとで、突然動かなくなる、3ちゃん。 今だとばかりにあわてて3ちゃんを抱き上げた直後、えっ・・・と動きの止まるニイニ。 「ママ、、、ママ、、、、3ちゃん動かない。今死んじゃったかも」 「うそでしょ?」 「ほんとだよ、、、ほんとだよ、、、3ちゃんぜんぜん動かない。首がぶらぶらなんだよ。 ああそうだ、ニイニが・・・ニイニが拾い上げたとき、首折っちゃったのかもしれない・・・どうしよう・・・どうしようママ・・・そんなのやだああぁぁーーーーー!!」 ニイニの号泣が、車に響きました。 「ニイニが殺したんだ、ニイニが殺したんだ、せっかく生き返ったのに首折って・・・ニイニが3ちゃんを殺したんだ・・・!」 3ちゃんを抱きかかえ天を仰いで号泣するニイニ。目をやると、ニイニの手の中で絶命している様子が、はっきりと分かりました。 「ニイニ、あなたが殺したんじゃない。今のは最後の羽ばたきだったんだよ。ニイニは助けようとして、がんばっただけだよ。泣かないで、とにかく病院まで行こう」 ニイニのせいだ、ニイニが殺したんだとつぶやきながらおいおい泣き続けるニイニには、わたしの声はほとんど届いていないようでした。 じーちゃんの主治医の先生は、3ちゃんの亡骸を、とても丁寧に診てくださいました。 「これは多分、首が折れたんじゃなくて、この首の傷が致命傷だったんだよ。きっとネコに振り回されちゃったんだね。一生懸命来てくれたけど、残念ながら、もうお亡くなりになってますね。」 こどもたちとわたしは、だまりこくってうなずきました。 「もう1羽、いらっしゃるんでしょ?何かあったらまたご相談下さい」 ぼんやりしているニイニのぶんまで、ありがとうございますと深々頭を下げました。 真っ暗な帰り道、3ちゃんの亡骸を抱きながら助手席で泣き寝入りしてしまったニイニ。一方わたしは、渋滞の中をとろとろと運転しながら、朦朧とする頭でずっと考えていました。 誰がリビングをあけたんだろう? 誰が、キジ部屋をあけたんだろう? どっちもネコとは考えにくい。つまり、誰かがきちんとドアをしめなくて、そこからネコが脱走して、悲劇が起こった。 誰のせいだろう・・・ でも。 誰のせいかを特定することに、意味があるんだろうか? 責任をひとりになするのは正しいのだろうか? そもそも、この飼い方そのものに無理があったと、考えるべきじゃないだろうか。 喰うものと喰われるものが同居する危険を押して、キジを飼い始めたことに。 さんざん注意していたのに、注意しきることができなかった。 そして、きーちゃんと3ちゃんを、とんでもなく怖い目に遭わせてしまった。3ちゃんの命を奪ってしまった。自分のもとで大きくすると誓っておきながら。 ならばあの時、見つけた卵を放置しておけばよかったのか? ・・・ひょっとしたら、それがよかったのかもしれない。 そうすれば、こんな不幸はなかったんだ。 次の日、保育園の先生から「キジの話をポチンちゃんから聞きましたよ」と言われました。 ポチンは「キジがくろとぴょんに殺されちゃったの、でもネコはどうしてもキジを食べちゃう性格だから、悪いのはドアを閉めなかった人間なんだよ、ネコは悪くないんだよ」と、泣きそうな顔で必死に説明したそうです。 その週末、三芳村で3ちゃんを埋葬しました。 じーちゃんの眠る、あの木の根元に。 じーちゃん、天国から3ちゃんに手をさしのべてください。 ここは、怖いことなどないからね、って。 こうして我が家には、こわがりのきーちゃんが、ぽつんと残されました。 (つづく)
by babamiori
| 2010-10-12 12:53
| 生き物について
|
ひょんなことから、南房総に8700坪の土地を手に入れてしまいました。平日は都心で建築ライター・コーディネーターとして働き、週末は南房総で野良仕事。ちょっとムリして始めてみた二重生活ですが、気付けば主客転倒で、どっちがメインの住まいかわからなくなっています。田舎暮らしの衝撃と感動、苦悩と快感をそのまま綴ります。
ニイニ中3、ポチン5年、マメ1年。
by babamiori
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